ベルギーで世界大戦の歴史を学ぶ、そして現代にも通じること

先月末のことになってしまうのですが、ベルギーで2つのミュージアムに行ってきました。2つとも世界大戦に関するもので、1つ目は「Kazerne Dossin」、2つ目は「Breendonk」というところ。だいぶ記憶が薄らいでしまいましたが、こうやって自分の言葉で記録に残しておかないとすっかり忘れてしまうので、思い出しつつ書いておこうと思います。


この2つのミュージアムについては今まで存在すら知らず、全くのノーマークだったのですが(某ガイドブックにも載っていません)、なぜここに行ってきたかと言うと…、その前の週に大学の同窓会イベントがありまして(みんなで醸造所に行ってきました)、そこで幹事をして下さった「ベルギーのプロ」の先輩(女性)から、とても勉強になる場所だからぜひ行ってみてと勧められたからです。先輩は、名実ともに本当にベルギーのプロで、現在はジャーナリストとしてご活躍されています。そんな彼女が言うのだからこれはぜひとも行かねばと思い、早速次の週に行ってきたのでした。



最初に行ったのは「Kazerne Dossin」。メヘレンの街の中心から歩いてすぐのところにある、ユダヤ人迫害の歴史に関するミュージアムです。オープンは1995年ですが、その後リノベーションされ、2012年に再オープンしました。館内はとてもキレイで、オーディオビジュアルを駆使した作りになっています(ベルギーのミュージアムって概してこういう最先端の技術を使ったところが多い気がする)。そんなに有名な施設ではありませんが、多言語国家ベルギーらしく、説明は英語・仏語・蘭語。この規模のところで英語で説明があるのは本当に有り難いです。


第二次世界大戦中、1942~1944年にかけて、この場所から 25,484人のユダヤ人と352人のジプシーがアウシュビッツに連れて行かれたそうです。そして戻ってこれたのは、うちたったの5%。このミュージアムでは当時の写真や絵、遺留物が歴史に沿って展示されており、それを説明する形でこの時代の状況が描かれていました。特にアウシュビッツに連れて行かれる電車の日付と乗った人数が書いてあるところでは、淡々と情報が記載されているのですが、とてもリアルで恐ろしさを感じました。ベルギーに関わる情報が多いですが、基本的に関連するヨーロッパの歴史が分かるようになっています。


印象に残ったのが、犠牲になった人達を「データ」にしない、というプロジェクト。約26,000人の人が犠牲になりましたが、それぞれの人にはちゃんと人格があり、兄弟がいたり、子どもがいたり、犬が好きだったり、数学が苦手だったりする訳です。ここでは、犠牲になった人達の写真を集め、名前を特定し、犠牲者「数」ではなく、個人を浮き彫りにするという作業をずっと続けています。犠牲者を数で見ると、なんだか実感がわかず、すぐに通り過ぎてしまいそうになりますが、こうやって、「こんな人達が犠牲になったんだ」という風に分かると、こんな悲惨なことは二度と繰り返してはならない、と強く思います。館内には、PCのような装置が設置されており、画面がタッチパネルになっており、写真をタッチするとその人の詳細が出てくるようになっていました。個人の特定は気の遠くなるような作業だとは思いますが、ずっと続けられています。

<壁中に貼られた写真>


<写真がない部分はまだ見つかっていない人達です>



このミュージアムでもう一つ印象的だったのは、ユダヤ人の迫害の歴史だけでなく、「なぜユダヤ人だったのか」というところを深堀し、現代にも存在する差別やいじめについて問題提起しているところ。これらをテーマにした映像の紹介なども上映されています。

私は結構まじめにこのミュージアムを見学したのですが(2時間はいたと思います)、いろいろと考えさせられる場所だったのでぜひ皆さんにも行ってみて欲しいです。

ちょうど2カ月くらい前に「シンドラーのリスト」と「杉原千畝」の映画を見ていて、記憶が新しかったので理解もしやすかったです。行く前に見ておくと分かりやすいかもしれません。



そしてKazerne Dossinの後に行ったのがBreendonk要塞というところ。こちらはブリュッセルとアントワープの間に位置し、1909年に着工し、元々は第一次世界大戦の際にアントワープを守るための要塞として造られました。

辺りは特になにもない、なんだか寂しい場所です。見学者も私たちを含めて数名でした。

こちらが要塞の入り口。左手にある看板には「止まれ!ここを通るものは銃殺される」とドイツ語、フラマン語、フランス語で書いてあります。かなり広い要塞でざっと見ても1時間かかるし、じっくり見たら2、3時間は必要です。


Breendonk要塞は、第一次世界大戦ではドイツ軍の攻撃を受け降伏、そして占領されてしまいます。そして第二次世界大戦ではナチスに降伏、ドイツとベルギーのSSによって管理されるようになります。当初はユダヤ人を強制収容所に送る経由地として使用されていたそうですが、その後、レジスタント活動を行ったベルギー人を中心とする政治犯を収容し、強制労働をさせる場所となりました。

結果的に女性を含む約3500人の人々がここで強制労働を強いられ、半分以上の人が栄養失調や拷問などで亡くなったそうです。

第二次世界大戦でドイツは敗北し、証拠隠滅をする時間もなく急いでこの要塞から立ち去ったので、かなりの部分が当時の状態のまま残されていました。囚人達のベッドルームやトイレ、シャワー室、拷問を受けた部屋などなど…。なんだか押しつぶされそうな空気感で写真を撮る気にはなれませんでしたが、1枚だけ撮った廊下の写真だけあるので載せておきます。この両側に牢屋などの部屋があります。


このBreendonkの要塞も上記のKazerne Dossinと同様、「I’m not a number」というコピーで収容されていた人たちの一人一人の記録が見られるようになっていました。

相手のことを何も知らないと残酷な大量虐殺が出来てしまうかもしれません。でも一人一人の人格を深く知っていくと、絶対そんなことは出来ないと思います。「I’m not a number」というのはキーワードだな、と思いました。

題材は違いますが、先日これに少し関連する作品を2つ見ました。一つが、「善き人のためのソナタ」というドイツ映画です。これは東西分裂下の東ドイツで国家保安省(シュタージュ)で働いていた主人公が、反政府活動をする人を監視を命じられるのですが、盗聴しているうちにどんどん相手に感情移入していき上司の命令に背いてしまう…というストーリー。深く相手を知っていくことにより、残虐な行為が出来なくなってしまう例だと思います。

もう一つが村上春樹の「アンダーグラウド」というノンフィクション作品。オウム真理教の地下鉄サリン事件で被害を受けた人達に筆者が一人一人インタビューして(全員ではありませんが)、被害者を被害者「数」として素通りするのではなく、いかにこの事件が被害を受けた人に影響したのか、その後彼らの人生はどうなってしまったのかというのを一人づつ書いていったものです。作品の中で村上春樹さんが強調していたのも、被害にあった人たちをちゃんと個人として見て欲しかったということでした。


最後若干脱線してしまいましたが、2つの世界大戦は過去に起きたことですが、二度とこういう悲惨なことが起きないためのメッセージがこの2つのミュージアムには詰まっているような気がします。たまにはしっかりこういう勉強もしなければなぁと思った1日でした。


●Kazerne Dossin

https://www.kazernedossin.eu/EN/

●Breendonk

http://www.breendonk.be/EN/

Atlanta Life ~via Belgium~

2015年~2017年はベルギーで。2017年8月よりアメリカはアトランタで生活を始めました。

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