「黄金のアデーレ」から現代のユダヤ教徒をおもう…

「黄金のアデーレ」という映画を見ました。

先日見た、「ミケランジェロ・プロジェクト」と同様、ナチスに略奪された芸術品を奪還するというストーリーです。テーマは同じですが、時代設定や、描き方は全く違って、こちらはしんみりと色々と考えさせられる作品でした。


これもまた実話に基づいた話ということで、興味深く勉強しながら見ることが出来ます。

主人公は82歳のマリアおばあちゃん。彼女はアメリカ在住のオーストリア出身のユダヤ系アメリカ人で、第二次世界大戦時にはナチスの迫害を受けました。財産も全てナチスに略奪され、命からがらアメリカに亡命してきたのです。そんな彼女がオーストリア政府を相手に訴訟を起こしました。その訴訟とは、オーストリアのモナリザと称される、クリムトの名画「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」を返して欲しいというもの。上の画像の左にある絵ですね。有名なので、見たことがある人もいるのではないでしょうか。弁護士のパートナーとして、友人の息子の駆け出し弁護士、ランディを選び、彼と一緒にオーストリア政府と戦っていきます。

映画の中では、幸せに暮らしていた幼少期から、ナチスの迫害が始まり、ユダヤ人としてオーストリアで生きていけなくなっていく過去が、訴訟の進行とともにマリアおばあちゃんの記憶と並行して描かれています。結末を言うとネタバレになってしまうので、ここでは控えますが、ナチスの行った蛮行が、現在でもリアルタイムで誰かの心を傷つけていて、それと戦っている人たちがいるんだなと、ということがこの作品で分かりました。過去は変えられないので、人間が行った非行をちゃんと認めて、現代の私たちはせめてそれを正していく、という行為を丁寧にやっていくことが重要なんだと思いました。ナチスに略奪され、まだ正当な持ち主のもとに戻っていない美術品はたくさんあるそうです。


話はちょっと逸れますが、私のアトランタの家のすぐ近くには、シナゴーグが2つあり、毎週金曜日の夕方にはたくさんのユダヤ教徒がお祈りのためにやってきます。ぱっと見はユダヤ教徒だと分からないのですが、みんな歩いていること(ユダヤ教では安息日には乗り物に乗るなど、いかなる労働も禁止されている)、頭に小さな帽子(キッパという)を被っている(載せている)ことから、よく見るとユダヤ教徒と分かります。きっとこの人達のお父さんやお母さんもマリアおばあちゃんと同様、ヨーロッパから迫害されてきたんだな、と映画と重ね合わせて見てしまいました。

ベルギーでもよくユダヤ教徒を目にしましたが、彼らはとても伝統的な恰好をしていて、長いもみあげを蓄え、黒いスーツのような服を着て、大きな帽子を被っていたので、私たちと違う格好をしていることで、つい驚いてしまっていましたが、一度、ユダヤ教徒の学生の修学旅行の団体と飛行機の便が同じになった時に、彼らが伝統的な重苦しい服装とは裏腹にとても無邪気に楽しそうにはしゃいでいたのを見て、あぁ、外見は違うけど同じなんだよなぁと、とても当たり前のことを思った記憶があります。

私みたいに、ユダヤ教徒の歴史をちょっとかじってみたり、本を読んだり映画を見て、彼らのことを知ろうとしている人間でも、少し外見が違うだけで、ちょっと一歩引いてしまう時があります。なんだか悔しいし、自分を恥ずかしく思ったりするのですが、もうしばらく勉強を続けて、彼らのことを「ユダヤ教徒」としてではなく、どういうことを信仰していて、どういうことがタブーで、どういう風に生活している人なのか、もうちょっとちゃんと知ってみたいなぁと思いました。


Atlanta Life ~via Belgium~

2015年~2017年はベルギーで。2017年8月よりアメリカはアトランタで生活を始めました。

0コメント

  • 1000 / 1000